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最近、彼女の様子がどうも変だ。
ため息ばかりで、笑顔がぎこちない。
―ったく、俺はお前の笑顔が好きだっていうのに。
なにか悩みがあるのだろう。こっちから聞いた方がいいのか、それとも向こうから相談してくるまでそっとしておいた方がいいのか、こっちまで悩んでしまう。
そんなことを思っていたある日、彼女がぽつりと呟いた。
「え?自分の将来が不安?」
―そういうことか…。
「お前、声優になりたいんだったよな」
そう言うと、彼女は元気なくこくりとうなずく。
いくら勉強しても、なかなかチャンスがめぐって来ないので焦っているのだろう。
自分はこのままでいいのか。やっぱりもっと現実を見て、普通の仕事に就いた方がいいのかと悩んでいるらしい。
不安そうな彼女に俺はそっと微笑むと
「確かに、夢を叶える為には相当な努力が必要だよ。俺もそうだったし。しかも努力したからって、誰でもなれる訳じゃない…」
と言った。その言葉を聞いて、そうだよね、とますます暗い顔になってしまう彼女。
俺は彼女を安心させてやるように、頭を撫でてやりながら明るい声で言う。
「でも大丈夫!いざと言う時は、お前一人くらい俺が一生食わせてやるよ。そう思える程お前のことが好きなんだぜ?」
すると彼女は暫くはポカンとしていたが、言葉の意味がやっと分かったのだろう。段々赤くなり、結婚願望はないって言ってたくせに、と俺が大好きな笑顔を見せてくれた。
そんな彼女を引き寄せ、俺は耳元でささやく。
―だから、焦るな。ゆっくり夢を叶えればいいよ。
2010年10月14日
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