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3016年、四月。日本は崩壊しても街と人は生き続けている。
1
新緑が映える森の中、木々の間を飛ぶように走る二つの影。前を走る小さな方の影――少女はただひたすらに目的地に向かって走る。大きな方の影――巨大なケモノから逃げながら。 そのケモノは体長2メートルはあろうかというくらいデカイ。全身は毛に覆われ、四本の強靭な足。鋭い爪で獲物を引き裂くため懸命に追いかける。その姿は筋肉質になった狼といった感じだ。ただ、額には狼にあるはずのない直径5センチくらいの白い石が埋まっていた。「――こちら爽香、もうすぐポイントに着く!」
少女――爽香は走りながら無線で呼び掛けた。
『ガガッ――こちらタカ、準備はいいぞ。予定通りに進め』
ノイズ混じりに聞こえた声に無言で頷き、ポイントへ向けてスピードを上げる。
その様子を500メートル先の崖からもう一人の少女、タカ――鷹見は見ていた。ライフルのスコープごしに。その後、ライフルの狙う先を真下の空き地にむける。昨日わざわざ木を切り倒して作ったものだ。
木々の間からこちらに近付く爽香が見える。 空き地まで後300メートル、250、200、150――見えた!――バンッという銃声とともに、ケモノの頭に大きな穴が開く。
「っよし!ど真ん中命中」言葉通り、見事に狼の額にある石の中心を撃ち抜いていた。
『ガガッ――っなぁにがよし、だよ!今私の掠めてったよ!?』
確かにスコープから爽香の黒い髪が数本舞うのが見えた。
「大丈夫だ。オレがそんな失敗するはずないだろ。それに、昨日言っただろ?ポイントの近くになったらアイツを引き離せって。よって、やらないお前が悪い」『――無茶言うなよ!アイツ2メートルはあるんだよ!』 「知らん、切るぞ」
そう言ってから無線機の電源を切った。
下では爽香の悲痛な叫びが響いていた。
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