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「久遠っ!アンタまた無茶したでしょ!」
「げっ夢美!」
桃色の髪の少女が、黒髪の少年ににじり寄る。
少年は、罰の悪そうな顔をしながら後ずさるが、少女の細い手がそれを許さなかった。
「全くもう、あんま無茶ばっかしたら死ぬよ」
「そんなさらっと言うなよ…」
「ほら、手を出して」
「ん…」
少年が負傷した手を出すと、少女はふわりと包みこむように握った。
すると、淡い光が帯び、少年の怪我が消えていく。
「すごいな」
「じい様が言うには、“治癒”って言うんだって」
「へぇ」
少年が、治った手を軽く振る。
「ね、久遠?」
少年が少年の名を呼ぶ。
少年が、少女に振り返り返事を返す。
少女はにこり、と笑みを浮かべながら歩き始めた。
「早く、大人になりたいね」
「…ああ」
少年は穏やかに答えて、空を見上げた。
色々な色の混じった、空。
溶けるようなその空に少年はゆっくり歩く桃色の少女を重ねて微笑んだ。
始まりの終わりは、ゆっくりと二人に迫っていた。
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