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「ふざけるなよ、そんなののために私は、久遠は!」
夢を奪われた。
「畜生……!殺してやる」
その顔を憎悪に歪めて。
彦座はそれを見て、ぱちぱちと手を叩き「大いに結構!」と高らかに笑う。
「好きだなぁ。憎しみに歪む顔。哀しみに彩られた顔。もっともっと、見せてくれ。夢真珠よ」
ぶち、と何かが切れるような気がした。
ただ、その男を睨み、叫んだ。殺気という殺気を全て彦座へと向け、殺してやらんばかりに、駆け出した。
「残念だったな、夢真珠」
しかしそれすら彦座には届かず、兵馬に腕を掴まれた。
「久遠……!」
「違う、俺は兵馬だ」
言うや、金の力によって現れた短剣が夢美、もとい雛の腕を貫いた。
「う、ああああっ!!」
絶叫が響き、突き出た剣の切っ先に押し出され、何かが飛び出ていくのを兵馬は確認すると、ずるりと短剣を引き抜いた。
「う、ああ……!あの夢真珠の場所を、正確に……」
普通では考えられないことだが、現に今、腕の中にあった筈の夢真珠は兵馬の手の中だ。
「だ、め……!ゆめ、み!返して……!」
動かない腕から止めどなく溢れる血が、水溜まりを作ってゆく。
雛は、必死に腕を押さえ立ち上がった。
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