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ボタボタと止まらない血はみるみるうちに雛を赤く染めていった。
それでも雛は、兵馬の手に落ちた夢真珠を取り返そうとヨタヨタと駆ける。
「だ、め……!」
「ふ……。これがなければお前に用はない。夢真珠を失った保持者など、ただの小娘。お前にはもう何も残ってはいまい」
ひゅ、と夢真珠を軽く宙へと放りまた握る。
「そんな粗末に扱わないで!それには夢美が……」
「黙れ」
「あう!」
蹴り倒され、雛は地面に横たわったまま兵馬を睨んだ。
「もう、やめて」
すぅ、と涙が伝う。
何故こんな悲しいことが続いてしまうのだろう。
何故、私には何もできないのだろう。
夢真珠の存在がどれだけの人を弄んだのだろう。
夢真珠が生まれるが為に夢を奪われ永久の時間を醜い感情の中をさ迷う少女。
それは雛と同年代の、ごく普通の女の子だった。
何故、こんなにも哀しく、哀れな戯曲が延々と、奏でられるのだろう……。
「ひこ、ざ。夢真珠の連鎖は、私の代で断ち切る」
キリ、と拳を握り締め、ゆっくりと立ち上がった。
彦座は、然も楽しそうに笑みを浮かべる。
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