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しゅるっと彦座の体に木の根が巻き付く。
拘束された彦座は、薄ら笑いを浮かべながら、木の根を水の刃で切ろうと試みるが、水は弾かれて飛沫が舞う。驚きを隠せない彦座に、燦は「無駄だ」と涙を浮かべながら叫ぶ。
「雛が、自分の存在を消してまでくれた力だ。お前なんぞに破れるわけがない!」
「馬鹿な……!水の力が、木の力に負ける筈が!」
「現に今、あるだろう」
兵馬は言いながら、彦座に向かって刃を投げる。
それは彦座の手足へと突き刺さり、彦座は顔を歪めた。
「こんなにも、力の差が」
「……久遠」
「……俺は、久遠じゃ、ない」
「うん。ごめん」
「……だが、何故だかはわからないがお前を知っていた」
「うん。ありがとう。それだけで、十分」
百年の年月は、酷く長くて酷く無機質に感じていた。それが今、どうだろう。
終わろうとしている。
夢見雛という、たった一人の少女によって。
「彦座」
壮大が、ゆっくりと歩み出した。
止まらない涙が頬を伝うが、気にしなかった。肌に爪が食い込むくらい握り締めて、一歩ずつ。
燦と兵馬の力によって動けなくなった、彦座へ。
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