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夢美か?
兵馬か?
それとも燦か?
また何か小言言われるのかな。
なんて思いながら、振り向くこともせずに、「何だよ」と言えば、その人物は直ぐには返答をしなかった。
何なんだ、と壮大がその人物に向き直ろうと身じろぎをする。
その時だった。
「ねぇ、壮大。今日の夜、何食べたい?」
鈴を転がしたような、透き通った声が響いた。
壮大は、ぴたり、と動きを止める。微動だにせず、今しがた聞いた声を、頭の中で何回も何回もリピートさせては、目を見開いた。
そんな壮大を、下にいる人物はくすくすと笑って、「そうだなぁ」と少し考えて、また口を開く。
「魚の塩焼きにする?壮大、好きだよね。あぁ、お蕎麦でもいいよね」
忘れるはずもない、声が。
もう聞くことはないだろうと思っていた、声が。
今、ここで。確かに、聞こえている。
壮大は、下を見た。
「久しぶり。ねぇ、壮大。私も隣に行きたいな。木登りってしたことないんだ。きっと凄く、気持ちいいんだろうな」
ああ、気持ちいいよ。
凄く、凄く、心地好い。
それを、お前にも教えたいって、思っていたんだ。
けど、今は後回し。
すたっ、と木から飛び降りて、壮大は目の前の少女を見詰めた。
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