338人が本棚に入れています
本棚に追加
/157ページ
「来たか、雛」
「…はい、お父様」
大広間へと足を踏み入れた雛は、父の前へ歩き出るとひざまずき頭を垂れる。
後ろには、従者たちがずらりと並んでおり、雛は一人一人に目を遣った。
知らない顔などいない。全ての人の顔も名前も頭に入っている。
そんなことを思いながら雛は皆一様に口を結ぶ従者を見ていた。
その時だった。
二人、知らない顔がいる。
一人は、父と然程歳が離れていないであろう男。
もう一人は、雛と同じくらいの歳であろう、少年。
青い髪をしたその少年を、雛はそれとなく見詰める。
そんな時、雛の父はその少年に手を向けながら言った。
「雛。この少年が夢真珠を護る役目を承った」
「…はい。宜しくね、え、と…?」
其れを聞いた雛は、にこりと笑い少年に呼び掛けようとしたが、名前がわからず、つい止まってしまった。
「……だい」
「え?」
ぽつりと少年が言葉をもらした。
聞き取れず、雛は思わず呆けた顔のまま、首を傾げる。
そんな雛に、少年は先刻よりも大きな声を出して言った。
「壮大。俺の…名前」
最初のコメントを投稿しよう!