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「壮大、よく見ておけ」
「……」
父に言われ、壮大は何も言わずに雛に視線を向ける。
夢真珠を護る者として父親に連れてこられた壮大だったが、その他の事は何も知らない。
故に、今から何をしようとしているのか、何故雛は震えているのか、わからなかった。
雛は、その震える小さな体を自らの手で抱き締めながら小さく言った。
「…滝、さん。お願いします」
声は、震えていた。
滝というのは、きっと女の名前だろう。
黒い布で表情はわからないが、小さく「雛様」と呟く女の声が聞こえた。
切ない声が。
泣きそうになるのを堪えて、ただ俯き視界を閉ざすように目を閉じる雛。
滝と呼ばれたその女は、悲し気に、大きく頷いた。
黒い布をはためかせながら、短剣を強く握りしめる。
その短剣を振り上げ、その白い腕に突き刺した。
ザクリ、と赤い花が咲き、床にボタボタと鮮血が落ちてゆく。
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