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「……なぁ、雛……その、な」
何と言ったら良いのか、わからない。
ただ、目の前の雛の笑顔が、どことなく不自然だったから。
言う言葉が見つからず、壮大は無意識に手をのばし、雛の頭をわしわしと撫でていた。
「……壮大?」
雛が不思議そうに首を傾げ、壮大の名を呼ぶ。
「……と、あの、な……その……なんつったらいいかわかんねぇけど……」
しどろもどろに言葉を探していた、その時だった。
ぽろりと雛の瞳から滴が溢れる。
俯いていた雛からポタポタと幾度も落ちていく。
「うおっ!?わ、悪い!俺無神経な事……」
「本当は……覚えてる」
「……え?」
「確かに、細かいことは覚えてないけど……いつも私をおぶってくれたおっきな背中も。私の頭を撫でてくれたおっきな手も。いつも安心できたあの笑顔も。
すごく、抽象的だけど……覚えてる」
ふるふると震える雛はいつもより、小さくて、弱々しくて。
「何だよ……全然覚えてるじゃねーかよ……。なぁにが抽象的だ。ばっちし覚えてんじゃねぇか」
「うぅ~……」
ゆっくりと雛が顔をあげた。
瞳は涙がたまって、ゆらゆらと揺れている。
「正直に言ってみ?聞いてやるから」
雛はきゅっ、と俺の服を掴んだ。
「……会いたい」
ΧΧΧΧ
「うぐぁっ!」
男は吹っ飛び、痛みで中々起き上がれずに小刻みに痙攣していた。
その男を、別の男が歩み寄り、勝ち誇ったように見下ろした。
「秋夜……だっけ。いいか、守護の壮大とかいう奴に伝えとけ」
男は口元を歪め、右手を顔の前へとかかげた。
そしてぐっと拳を握った。
「夢真珠保持者の雛を護るのはこの俺……
燦(さん)だ」
ΧΧΧΧ
「……お前の兄貴、何て名前なんだ?」
「お兄ちゃんの名前?
燦。燦お兄ちゃん」
「そうか、いい名前だな」
「うんっ」
波乱の幕開けだった。
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