思わぬ襲来

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深夜。 秋夜は傷だらけではあったが、命に関わるほどではなかった。 それに安心する雛だったが、安心する反面、頭に兄が思い浮かぶ。 雛は布団から出て立ち上がると、近くで座って寝ている壮大を起こさないように布団に寝かせた。 雛は家から出て、月を眺めていた。 木にもたれかかり、幻想的に輝く月を祈るように、見つめていた。 お兄ちゃん、見てますか。この月を。漆黒の闇の中で、浮かぶこの月を。 すう、と瞼を閉じる。視覚を閉じて、触覚で、聴覚で感じてみる。 「今夜は月が綺麗ですね」 そんな中、突如、声が聞こえた。 低い声。壮大よりも低いその声は、どこか懐かしく感じた。 「そう……ですね」 雛は月を見上げたまま返す。 すると、後ろから、クスクスと笑う声が聞こえた。 「……?」 不思議に思い、雛は振り向いた。 そこには、肩を震わせ笑う男がいた。 顔は見えない。 「驚いた。全然変わってない……」 言うや、男はじりじりと雛に詰め寄った。 雛は後退りながらも、男から目をはなさない。 「何のこと……わっ!」 いきなり、脇の下に手をはさまれ、そのままグンッと持ち上げられた。 「何するんですかっ!」 じたばたと暴れるが、男には微塵も効かない。 男はにっ、と笑うと、雛に顔を向けた。 男と目があい、雛は固まった。 男は固まった雛をようやくおろし、雛と視線を合わせるように屈む。 「俺……燦。覚えてるか、雛」 雛は目を見開いた。 「……っ、お、兄ちゃん……?」
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