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儀式の終わりを告げられた雛は、脱力したのかへなへなとその場へ座り込む。
短剣を突き刺した時の、激しい痛みが嘘のように、腕は元通りだった。
ただそれでも、確かに感じる腕の中の存在。
“夢真珠”。
それとなく腕を見詰める雛に、父は歩み寄った。
「雛」
呼ばれ、顔を上げれば厳しい表情を浮かべる父。
何を言われるかなど分かりきっている。雛は短く返事を返せば、予想通りの言葉が降ってきた。
「いいか、雛。勘違いするなよ。お前が守られるのではない。夢真珠を守るのだ。
お前は器だ、雛。
夢真珠の器れ物。それ以外の何者でもない。
何も望むな。感じるな。器には不要なのだ」
どこか他人事のようにその言葉を聞いて、雛は「はい」と頷く。
元よりそのつもりですと、言うように。
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