雛の力

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「…なるほど…流石は夢真珠と同化しただけあるな…。血に治癒力があるのか」 じとっと赤く染まる雛の袖を見やる。 雛は反射的に、壮大の背に隠れた。 壮大も、雛を庇うように立ちはだかる。 燦はニヤリと笑みを浮かべて歩み寄った。 「俺の…妹だ。渡してもらおうか」 さっきまでは言われて嬉しかった言葉なのに、今この瞬間、雛の胸に突き刺さった。 「…よく言うぜ。これ、アンタがやったんだろ」 そう言って雛の頬をなぞった。 「いたっ」 「あ、悪い」 その時。 「壮大…ちょっとごめん」 ずい、と雛が前に出た。 「おい、雛!?」 壮大が制止の声を投げるが、雛は気にせず、歩みを止めない。 「…お兄ちゃん」 「雛っ!そいつはお前が知ってる兄貴じゃねぇ!!近づくなっ」 雛は立ち止まりそうもない…。 「雛…」 燦が手を伸ばす。 雛も、手を伸ばす。 「雛っ!!!」 壮大が、さけぶ。 辺りは雛の地面を踏む音しか聞こえない。 風でさえ、今この時は止んでいた。 「雛っ!!やめろ行くな!」 壮大が、雛に向かい走り出した。 「来ないで!!!」 雛が声を張り上げた。 ぴたり、と壮大が動きを止める。 「…大丈夫、だから…信じて」 ふわり、とした笑みを壮大に向けた。
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