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「お待たせいたしました。ミルフィーユのバニラアイスクリーム添えでございます」
運ばれてきたのは、店の雰囲気同様気取り過ぎない、それでもお洒落なデザート。
パイ生地の間に苺とカスタードクリームが挟まっていて、見た目にも可愛らしい。
けど――
(俺たちみたいや)
綺麗に積み重なっている様に見えるパイとカスタードクリーム。
けれどそれは、綺麗にすれ違っているとも言える訳で。
「……紙一重、やな」
「は?何がや?」
ダイシが怪訝そうな顔をして、ミルフィーユをパタンと倒した。
上に乗っていた苺もコロンと転がる。
「あっ、自分何しとんねん!?」
「え?」
「ケーキ倒したらあかんやろ~」
「だって、この方が食いやすいで。味は同じやし」
ダイシは全く気にせずに、倒れたケーキにフォークを突き立てる。
「それともお前、これより良い食い方知っとるんか?」
「いや、知らんけど……」
知らんけど、何となくドキッとした。
俺とダイシの心の様なミルフィーユを、ダイシがいとも簡単に倒したから。
――俺の考えとることなんて、ダイシが知る訳ないのに。
「早よ食えや。うまいで?」
ダイシの笑顔に急かされて、ダイシと同じ様に倒したミルフィーユを一口大に切って口に運んだ。
カスタードのふんわりした甘さの中から、苺の酸味が舌を刺激する。
確かに、倒しても味は変わらないようだった。
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