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月の光が僅かに届く、とある廃墟の中で一人の青年が、いかにも面倒そうな表情で立っていた。
夕焼けのような紅い瞳と、空の蒼を連想させる紺碧の髪の色は、闇の中でも映える幻想的な輝きを放っている。
真っ黒なワイシャツと、蒼の鎖と蒼い透明な石の止め具で飾られたループタイに、真っ黒なズボンと背広を羽織り、ズボンのポケットに両手を突っ込みながら、前方にいる“何か”と対峙している。
僅かな光の中で、目印になるのは青年が吸っている煙草の灯りだけ。
そんな中、今にも襲いかかろうとする“何か”に怯えもせずに、青年はただ立っているのだ。
――青年の名はシュバリエ=ドゥ=ブルー。
彼は、人間ではない。
俗に吸血鬼と呼ばれる生き物、“昏(くら)きもの”としてあらゆる時代を生きてきた存在である。
吸血鬼と言えばすぐに思い起こされるのは、血を啜り人間を“昏きもの”の眷属へと貶め、十字架を嫌い、太陽の光やにんにく、流れる川を嫌う。
そんなどこかの物語で聞くような者達だろう。
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