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それを見たシュバリエが小さく笑う。
極限の命のやり取りを楽しんでいるのか、咥えていた煙草を指で摘むと、それで一歩前に踏み出した。
“何か”は大きく咆哮したかと思うと、目にも留まらぬ速さで走り出す。
“何か”がシュバリエの元に辿り着いた瞬間には、そこには何もない。
空しい空間があるだけだった。
訳が分からないのか、突然姿を消した獲物を捜し求めるのも忘れているのか。
“何か”が外見に似合う、獣らしい仕草で首を傾げたその瞬間だった。
不意に、背後から冷たい声音が降ってきたのは――。
「遅ぇよ、禍斗(かと)」
背後を取られた“何か”、禍斗に最早勝ち目はなかった。
振り向く隙すら与えられず、恐らく何が起こったのかすら理解らないままに身体はバラバラに刻まれ、赤黒い血を撒き散らしながら、地面へと堕ちて行った。
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