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昔の戦争とは違って、自ら死を選ぶことが英雄視されない時代だ。だからこそ、この森を抜け、キャンプに戻らなくてはならない。大勢の仲間の死を背負っているのだから。
肩で息をする。胸元でシャリシャリと音を立てるドッグタグは当初の二つから十個にまで膨れ上がっていた。
せめてもの、報いだ。生き延びねば。
熱い右足を軽く叩くと、ライフルを杖に進み始めた。
しかしどんなに歩いても進んでいる気がしない。
先程の流れ弾に当たってから、一段と落ちたペースだが、それよりも周りの景色の変わらなさに苛立ちを感じていた。
少なくとも作戦地域からは、既にかなり遠ざかっているはずだ。右手に持つコンパスも仲間がいるはずの北を指している。それを目指して逃げてきたのだから。
劣勢だとはいえ、この辺り一帯はまだ作戦範囲になっているはずだ。大分、友軍に近づいているはずなのに、何故、それらしき痕跡や気配がないのだろうか。
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