第一節:春の出逢い

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別に新しい住人が増えるのは、おかしな話じゃない。 現在の『森山荘』は二階に俺と木村(もとい、姫川)、一階に大家さんと大学生が1人住んでいるだけ。 新しい住人が増えるのは、当たり前だと思うけど……。 「なあ、姫川。何で大家さんはわざわざ俺に言いに来たんだ?」 「えっ?隣に引っ越してくるからじゃないの?」 「じゃあ、姫川も大家さんに聞いてたのか。」 「ううん。アタシは仲介している不動産屋から話を聞いただけだよ?」 「……じゃあ、俺にだけわざわざ?そんなの、回覧板で知らせるとかすればいい話なのに。」 『森山荘』では、昔から何か伝達事項があるときは回覧板を回して知らせるというシステムが続いている。 これは、昨今ご近所付き合いも希薄になっている状態を大家さんは嘆き、せめてこの『森山荘』では住人同士の関係を築こうという考えかららしい。 回覧板を回すことで直に他の住人と接することが出来るし、相手の近況や健康状態も測る狙いもあるみたいだ。 回覧板がずっと同じ部屋に置きっぱなしだったら、その部屋の住人に何かあったのかって気づけるしな。 ……まあ、何度も同じ用件で電話をかけるのがめんどくさいという理由から、回覧板システムが始まったという説もあるけど。 とにかく、隣に引っ越してくるなら回覧板や引っ越してくる当事者が俺に知らせることだってあるのに、何で直接言いに来たんだろう……?
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