◇始まりは…◇

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「聞けないなら、見なかったフリするんだな」 「え……」 「そんな事出来るかなぁ?」 「……」 「そんな器用だっけ?」 反論できない私に、ポンポン言葉を投げかける京介。 私は悔しい思いでポツンと呟いた。 「…無理…」 「だろうな」 「…………」 「で、どうすんの?」 事も無げに聞く京介に、悔しくて唇を噛む。 「………聞く…」 「そうしろ」 「…」 どうせ器用に知らないフリなんてできないもん… 言いたいほうだい言われ拗ねて唇を尖らせると、彼は得意げに自分の胸を叩いた。 「まぁ、もしもなんかあったら、大サービスで俺様の胸を貸してやるぞ?」 「え…?」 「ドンと飛び込んでこい!」 柄にもなくオドケたようにそんな事を言った京介に、思わず吹き出してしまった。 「…先輩、今日キャラ違うよ?」 「…!」 「俺様って…」 クスクス笑いながらも必死で笑いをかみ殺していると、京介は私の頭をワシャワシャかき混ぜながら怒鳴った。 「彩音が全然笑わないからだろ!?」 「え…?」 「…俺は彩音の笑顔が好きなんだよ!」 「!!」 照れついでだ!とばかりにそう言い放ち、耳まで真っ赤になったその顔を覆ってしまった京介。 「…だから、…くだんない事ウダウダ考えてないで、とっととぶつかってこいって言ってんだよ!」 「…うん…」 思いがけず聞くことが出来た京介の想いに胸がキュンとなる。 …何があっても、必ず京介先輩が受け止めてくれる… 我ながら単純だと思うけど、そう思うとなんだか気持ちが軽くなった。 「ちゃんと礼ちゃんに聞いてみる。 …ありがとう、京介先輩!」 「…あぁ」 「…大好き」 「…………」 そう言って笑う私に小さく頷くと、京介は片手で口元を隠したままそっぽ向いてしまった。 …先輩可愛い… 嬉しくて、照れくさくて… お互い赤い顔して窓の外を見つめる。 「…もう大丈夫か?」 「うん!」 少し心配げに尋ねた京介に頷くと、彼はクスッと笑って私の頭を優しく叩いた。 「…いつもの彩音に戻ったな」 「ありがとう…」 …そうだよね。 久しぶりに会ったんだから、ちゃんと笑っていよう! 大好きな人の為に――… 私はそんな思いを噛みしめ、それから後の二人の時間を素直に楽しむ事にした。 .
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