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「聞けないなら、見なかったフリするんだな」
「え……」
「そんな事出来るかなぁ?」
「……」
「そんな器用だっけ?」
反論できない私に、ポンポン言葉を投げかける京介。
私は悔しい思いでポツンと呟いた。
「…無理…」
「だろうな」
「…………」
「で、どうすんの?」
事も無げに聞く京介に、悔しくて唇を噛む。
「………聞く…」
「そうしろ」
「…」
どうせ器用に知らないフリなんてできないもん…
言いたいほうだい言われ拗ねて唇を尖らせると、彼は得意げに自分の胸を叩いた。
「まぁ、もしもなんかあったら、大サービスで俺様の胸を貸してやるぞ?」
「え…?」
「ドンと飛び込んでこい!」
柄にもなくオドケたようにそんな事を言った京介に、思わず吹き出してしまった。
「…先輩、今日キャラ違うよ?」
「…!」
「俺様って…」
クスクス笑いながらも必死で笑いをかみ殺していると、京介は私の頭をワシャワシャかき混ぜながら怒鳴った。
「彩音が全然笑わないからだろ!?」
「え…?」
「…俺は彩音の笑顔が好きなんだよ!」
「!!」
照れついでだ!とばかりにそう言い放ち、耳まで真っ赤になったその顔を覆ってしまった京介。
「…だから、…くだんない事ウダウダ考えてないで、とっととぶつかってこいって言ってんだよ!」
「…うん…」
思いがけず聞くことが出来た京介の想いに胸がキュンとなる。
…何があっても、必ず京介先輩が受け止めてくれる…
我ながら単純だと思うけど、そう思うとなんだか気持ちが軽くなった。
「ちゃんと礼ちゃんに聞いてみる。
…ありがとう、京介先輩!」
「…あぁ」
「…大好き」
「…………」
そう言って笑う私に小さく頷くと、京介は片手で口元を隠したままそっぽ向いてしまった。
…先輩可愛い…
嬉しくて、照れくさくて…
お互い赤い顔して窓の外を見つめる。
「…もう大丈夫か?」
「うん!」
少し心配げに尋ねた京介に頷くと、彼はクスッと笑って私の頭を優しく叩いた。
「…いつもの彩音に戻ったな」
「ありがとう…」
…そうだよね。
久しぶりに会ったんだから、ちゃんと笑っていよう!
大好きな人の為に――…
私はそんな思いを噛みしめ、それから後の二人の時間を素直に楽しむ事にした。
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