王の悲劇

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「王はすでにすべてをすてられた。地上のすべての『もの』も、そこにいるすべての『ひと』もすでにすてられた。それだのに、自身がついに自身だけになることとなったその望みに望んだ事態だけで済ませず、どうして、さらになお――すべてをすでにすて去ってしまわれた王よ、どうして、さらになお、地上の誰も決して近づけぬところのただたったひとりだけの城をなお欲したのです?」   「およそ生きとし生けるもののひとりにも伝えてはならぬこれは永劫の秘密だ。自らが自らの王となるものは、ひとびとの息がかようところにいてはならぬ。ひとびとがそこにあること、そこにあったことにただひたすら反応する微かな標の何もそこにあってはならぬ。いいかな。これまでのいかなる大事業、大思想、大預言といえども、ひとびとのなかでひとびとにただただ反応し、ひとびとにつき動かされた生のいたずらな反射のかたちにほかならぬのだ。おお、お前だけは聞いておくがよい。自らが自らの王になるものは、自らが自らより産みだすほかの何ものをも自らのなかに置いてはならぬのだ。」
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