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「男…なのか?それにその目は」
「先に質問に答えて貰いたいものだな」
苛立つように言われ、弦一郎はあっさり折れる。
「……真田弦一郎。この家の跡継ぎだ。お前は何故此処に居る?何者だ?」
「…弦一郎……。そうか、お前が弦一郎か」
"彼"は頷きながら何度も弦一郎の名を繰り返す。その意図は弦一郎には全く解りかねたが。
「よし、質問に答えよう。
俺は男だ。目はちゃんと見えている。
そして…………
それ以上、お前が知る必要は無い」
「何故だ」
「そして、誰にも云ってはならん」
「何故かと聞いている!」
「そうしなければならないからだ」
きつく問い掛ける弦一郎に、"彼"は淋しそうに微笑んだ。
「では、名だけ教えてくれ」
「それも出来ない。
何故なら俺には、名前が無い」
弦一郎はこの不思議な少年の事を知りたいと、切に願っていた。
その悲しそうな表情の理由も。
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