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…………暫く、時が止まったかの様に
弦一郎は、少年の瞳を見詰め続けた。
陽が赤を消して紫を示し始めた頃に、"彼"は俯いて口を開いた。
「これで大体察しがついただろう?
もう二度と、来てはいけない」
少年は背を向けて静かにそう云い放った。
戻り際に、弦一郎は一言だけ言った。
「お前を蓮二と呼びたい」
「夏に、この屋敷の庭に二つだけ蓮の花が咲いていたんだ」
「蓮二…。
………良い名前だ」
そして廊下を歩き始めた。
日は落ちて、遠くで鳴っていた雷が一層激しくなっていた。
それが二人の、最初の出会いだった。
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