夕刻の必然

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秋の夕刻。 赤く染まった庭園の一角で、弦一郎は弓の修練をしていた。 今日は昼から家の者が殆んど出掛けており、夜半過ぎ迄帰らないとの事で、普段出来ない精神修行をしようと思っての事だった。 弓を引くのにもいつもより力が入る。 キリキリと耳の側で弦を張る音を聴きながら狙いを定める。 射る瞬間、刹那、遠くから轟きが聴こえ集中が途切れる。 バシンと矢が放たれ、的を無視し明後日の方向へ刺さっていった。 弦一郎の気を引いたのは先刻の音… 空を見渡すと夕日の反対側、夜の方向に雨雲が広がり、雨の予告を告げていた。 ただそれだけの事で心を乱すなど、たるんでいるな、と呟くと 矢の飛んで行った植え込みの方へと向かう。 放っておくと、庭師が五月蝿い。
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