夕刻の必然

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綺麗に刈られた低木の壁の隙間から抜けると、屋敷の横壁が続いていた。 否、その壁を少し行ったところに、錠前付きの小さな鉄扉が付いていた。 其処に、矢が刺さっていたのだった。 近付いて見ると、矢は錠前の隙間に挟まっていた。 破損部分が無くてよかったと安堵しながら矢を引き抜くと、立派な錠前ががちゃん、と音を立てて床に落ちた。 周囲を見回して、誰も居ないことを確認した弦一郎はほっと胸を撫で下ろす。 悪意が無かったとは云え、見付かればお咎め間違い無しだ。 それにしても…、と、目の前の不自然に小さい鉄製の扉を見る。 こんな所に何故扉などがあるのかと首を傾げる。 名家である真田家は屋敷の敷地が広い為、住人である弦一郎ですら全てを知ることは容易では無い。 それに………… 幼い頃から、立ち入りを禁じられている館もあった。 決して立ち入ってはならない、禁忌の扉。 その向こうは… そう。 確か、この館だ。 弦一郎の心の中に、危険な興味が沸き出してきた。
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