嵐の寄せる土地

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  なびいた髪が顔にまとわりつく。 少し冷たい風が、昼間よりも強くなってきていた。 昨日まであった青空は、今はどんよりとした灰色に染まりつつあった。 重たげな雲が、早いスピードで東の空へと流れていく。 抱きかかえる人形が風に飛ばされるのではないかと心配になって、私は両手に強く握りしめた。 黒くうねる波の上、地平線の遠い空に、小さく夕焼けが沈んでいく。 「おじいちゃん、風がもう来てるよ」 私は低い崖の下に向かって叫んだ。 下では、祖父がボートを浜に固定する作業をしていた。 岸辺にロープでつながれたボートが、ごごん、と時折ぶつかり合いながら揺らいでいる。 「まだ海水が暖かい。南西の空に竜は来ているか」 かがんでいた祖父が顔を上げて聞いた。 私は灰色の空に目を凝らす。 「翼だけ、見えるわ」 風の音にかき消されないように、声を張り上げて祖父に返す。 祖父は何度か頷き、「家に入れ、フェリラ」とそっけなく言った。 いつもより早く雲が動いていくのをもう少し見ていたかったが、私は言う通りにすることにした。 祖父は怒ると三日は口をきいてくれなくなるのだ。 それに、なにしろ今日は、一年に一度の台風竜の渡りの日だ。 この村では、今夜はどの家も扉や窓に板張りをし、子どもに外出を禁じる。 帳を固く閉じ、朝が来るまで静かに息を潜めて眠りにつく。 強風を巻き起こす竜の群れが、やってくるのだ。
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