嵐の寄せる土地

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  『――……東に向かうにつれ、次第に勢力を増していくものと思われます。この竜群は、これから夜にかけてカタルーニャ半島を通過して、ナボル地方へ向かう予測です。渡竜警報が出されているのはベルヌ南部、……―――』 「今年は多いわねえ」  雑音の混じったラジオで流される暴風予報を聴いて、母が鍋から皿に料理を盛りながらぼやいた。 「竜の渡りが多い年は実りの多い秋になる。今夜だけの辛抱だ」 祖父がライ麦のパンを片手に窓の外を見た。 居間の薄い窓ガラスが、板張りと共に強風に揺らされ、生き物のようにがたがたと鳴っている。 外は漆黒の闇に塗りつぶされ、何も見えかった。 私は橙豆のスープを飲みながら、次第に大きくなる風の音を聞いていた。 「ごちそうさま」 スプーンを置いた私に母が声をかける。 「フェリラ、今日は早く寝るのよ。明日は枝拾いを手伝って頂戴。これだけ風が吹けば、明日は村中に沢山落ちているわ」 「母さん。私、竜を見たい」 「わがままを言わないで。竜の群れは大きな野風を起こすのよ。今夜は窓も開けてはいけないわ。わかったら、寝室へ行きなさい」 ぽんぽんと背中を叩かれ、渋々と私は寝室へと向かった。                  *            おおおん、おおおん、と嵐の吹き荒れる音が遠くから聞こえてくる。 ベッドに潜り込んで聞いていると、大きな生き物が鳴いているようだ。 その鳴き声は歓喜か、悲哀か、意味を理解することは出来ないが、互いを呼び合い、呼応しあっている。 相変わらず外は荒れていて、屋根が風で軋んでいるのが聞こえてきていた。 それでも温かい布団の中でまどろんでいると、だんだんと、荒れ狂う嵐はどこか別の世界の出来事のように思えてくる。 窓のいななきは次第に遠くなり、うとうとと私は眠りに落ちていった。
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