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母に着替えを手伝ってもらい、私は何重にも厚着をした。
昔、雪の積もった日に隣町まで歩いて行った時も同じように何枚も着込んだな、と関係のない事を思い出しながらも、私は嵐の夜に外へと出る怖さと、竜を見ることが出来るという期待に胸を高鳴らせていた。
コートのボタンを上から下まで留めて、祖父に手を引かれ、外へと出る。
途端に嵐の雨風に晒された。
祖父の手を頼りにして必死に歩くと、村の人々がたくさんいる場所へと出た。
全員コートを羽織り、いくつかのランタンの灯りがどこか頼りない感じで周囲を照らしている。
「フェリラ。竜が見えるか?」
祖父が聞いてきた。私は暗闇にじっと目を凝らす。
「……見えるわ」
暗闇の嵐の中、雨風を纏った大きな生き物が地面に座り込んでいるのが見えた。
今まで遠い空を飛ぶのを見たことがあるが、近くで見るのは初めてだった。
驚きと興奮で、自分の心臓がどきどきと跳ねているのが分かる。
想像より、やけに体格が小さい気がする。
空から落ちてしまったことの焦りや寂しさを感じ取るかのように、周りの風はそれに巻き込まれ、大きく流動していた。
体躯の小ささと、どこか幼げな雰囲気に、私はピンと来て祖父に言った。
「――子どもよ。子どもの竜だわ」
祖父は私の見つめる方を凝視しながら、そうか、と答えた。
「怪我はしていない。飛べるわ。けど、迷っている。群れがどっちに行ったのかわからなくなったみたい」
「幼体だ――早くランタンで道を!」
祖父は周囲の人間にそう指示した。
いつのまにか火の入っていない携行ランプを持った大人たちが集まってきていた。
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