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「もっと灯りを強くしろ」
「火種とオイルを」
「見えない。手元を照らしてくれ」
「並べ、並べ」
「群れのいる方角はどっちだ」
激しく降る雨と吹きすさぶ風のせいで声が聞こえず、全員が怒鳴り合いながら作業をしていた。
灯りを高く掲げた大人が海岸の崖へ向けて一列に並び始める。
それはまるでプロペラ機の滑走路のように、灯火の一本線となって空への道を照らし出し始めた。
その時、うずくまっていた竜が岩のような首をもたげ、嵐の虚空に目を向けた。
(あ――鳴く)
かっ、と大きく顎を開いて、竜が大きく咆哮した。
そこら中に響く轟音。嵐を引き裂くような鳴き声が、地面の底から大気をつんざいて大空へと広がっていった。
一段と強い強風が吹き荒れ、顔に叩きつけてきて、一瞬息が止まった。
周囲の大人たちも、倒されないように顔を覆って屈む。
怒声が錯綜し、私は恐ろしくなってぎゅっと目をつぶって両手で耳を塞いだ。
止まない雨風と怒鳴り声が合唱になり、わけがわからなくなって、ただひたすらに恐怖がつのった。
すると、私の手を握っている祖父のごつごつとした手が、ぎゅっと握り返してくれた。
「――フェリラ。フェリラ、大丈夫だ」
はっとして、そっと握り返す。
「何も心配することは無い。落ち付いて前を見るんだ」
掌が温かい。雨粒と強風が横なぎに叩きつけてくる中で、そこだけが家の中と同じ温もりを持っていて、拠り所のように思えた。
「竜を助けるんだ。安心する家族の元へ、帰してあげよう」
祖父の声は穏やかだった。
私は少し落ち着くことが出来て、そっと目を開けた。
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