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その夜、一時間かけてやっと眠った雄太を起こさぬよう、そっと扉を閉め夫の待つリビングへ向かった。
「お疲れ~やっぱりなかなか寝なかったね。」
そういいながら、冷えた発泡酒を私に渡してくれた。
今日もお疲れ、と乾杯をして晩酌をするのが私達の日課だ。
そして私の一番の楽しみでもある。
「あ~美味しい!」
私に続き冷たい発泡酒を一口飲んだ和馬は、いつにない真剣な顔をしていて私は驚き和馬の目を見つめた。
「どうしたの?何かあった??」
「うん、ちょっと色々考えたんだけどさぁ…」
大袈裟な相づちを打ち、思わず正座した私に そんな改まらなくたっていいよ と和馬はクスッと笑った。
「いや、あのさ。俺の実家に帰る気…ない?」
「えぇ!実家?また急にどうして?」
「ほら、俺長男だから菜穂子にもいずれそうなるかもしれないって事は話していたけど…。
俺ももう28だし、田舎帰って再就職ってなると今がギリギリかなって思うんだ。
雄太もさ、幼稚園行くようになればなかなか引っ越すのも難しくなるだろ?」
いずれはそうなるかもしれない…
確かに考えてはいたが、それはあくまで「いずれ」であり、まさかこんなに早く現実になるとは思っていなかった私は、戸惑っていた。
和馬のご両親とはまだ数えるくらいしか会った事がなかったが、とてもいい人だという事は分かっていた。
初めて会った私という、どこの誰だか分からない女の急な妊娠、結婚報告にも、ご両親は泣いて喜んでくれて力強く手を握って下さった。
だけど…一緒に住むなんて想像も付かない…。
そんな私の気持ちを察してか、和馬は言った。
「菜穂子も色々不安だろうから、ゆっくり考えてみてね。今すぐ答え出さなくてもいいよ。」
「うん、分かった…。」
力なく、私は頷いた。
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