幼子の想い緋より強し

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 今思えば、当時の俺はなんてひねくれたガキだったんだろう。  誰かが右と言えば左を向き、親切や感謝というものを心の底から嫌悪した。 「凌、兄ちゃんがケーキ買ってきたぞー」  小学校からまっすぐ帰ると部屋に引きこもるという毎日を過ごしていた俺を見兼ねたのか、ある日兄貴がそんなことを言った。  これまで母さんと二人で貧乏生活をしていたのもあって、正直ケーキには魅かれた。  しかし同時に「どうして特別でもない日にケーキを買うんだ」と、自分勝手だが憤慨した。  「いらない」と言うと、兄貴は「ちょっとでいいから見てごらん」とケーキの箱を開けてよこした。 「いらないよ!」  ムキになって押し返した瞬間、ケーキは箱ごとひっくり返った。 「あ……」  とんでもないことをした、と思った。  子どもながらに、俺の心に罪悪感という錘(おもり)がのしかかる。
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