ホット缶コーヒーの奇跡

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つべこべ言わずに、いや、つべこべ思わずに、とりあえずはこのイスに腰掛けてみることにする。 まさか、駐車場奥にこんな場所があったとは。 彼女の慣れた雰囲気を見る限り、最近ここを見つけたようなそぶりではなく、ずっと前から利用していたような、そんな大人びた落ち着きが見てとれる。 テーブルを挟んで俺と反対側に彼女も腰を下ろし、そのまま静止。 手に持っていた缶コーヒーをテーブルに置き、再び何をするわけでもなく、ただ単にぼーっとしているようにも見える。 「……それで、俺はどうすれば?」 「そのままでいい」 “ば?”を言い切る前に、彼女は俺の言葉を遮りつつ、言葉を発した。 そのまま……つまり座っていろと。 何がしたいんだ? いや本当マジで。 調度よく真上にかかっている木々が太陽の光を遮り、いい感じに雨風を防げそうなこの空間で、彼女の言葉どおり、ただ単に座っているのもいいかな~……などは思ったりはしない。 断じて。絶対に。 「用がなければ俺は戻一一「待ってて」 ……また、遮られてしまった。 俺という存在の地位が危うい気がする。 一一この場の流れには沿わず、彼女はいつのまにか手元の缶コーヒーを手に取っており、音もたてず、そのプル栓を開けていた。 ……いきなり何なんだ。 待っててと言って、次の動作は缶コーヒーとは。 疑問が絶えない、今現在の俺の心境。 誰か俺の代わりにこの状況を解説してくれ。  
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