ホット缶コーヒーの奇跡

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声のする方へと体を向けると、そこには車しかなく、俺の視界に入ってくるような人影は見当たらない……と思った。 車しかないのは事実だ。しかし、少し見落としがあったらしい。 ゆっくりとした動作で、“そいつ”は車の影から姿を現した。 「何故?」 そう、眠り姫。 もう一度言おう。車の影から出てきたのは彼女だった。 「…………」 「いや、何故と言われましても……ねぇ。風の吹くまま気の向くままってやつさ。特に意味はないぞ」 言い訳戯れ事をほざいてみたが、「あなたの後ろをこっそりと追ってきました」なんてことは絶対に言えないし、もちろんのことそんなストーカー紛いなことを言うつもりもない。 彼女の顔色を伺っても、何を考えているのかも分からない、何の変哲もない無表情を浮かべているだけ。 ……空気が悪い。 ……この場の空気が悪い。 そんな意味のない思考もそのままに、数秒居心地の悪い空気がこの場を流れていたあと、 「ついてきて」 「……はい?」 いきなりの彼女の言葉が、俺の耳に届いた。  
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