透明人間

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毎朝、毎朝、通勤ラッシュの電車に乗るのが苦痛で仕方ない。 かと言って、タクシーで会社に通勤するなんて以っての外で。 免許はある。でも私は俗世間で言う、ペーパードライバーってやつだ。 免許を取ったっきり、運転をしたのは数える程度しかない。 こういうのを宝の持ち腐れって言うんだろう。 「お早うございまーす」 一旦オフィスの前で深い溜息をついた後、満面の外面を引っ提げてドアを開ける。 「お早う、あやチャン♪あれ?休みの間に髪型変えたの?」 そう言って目を丸くしたのは、書類片手に珈琲を飲む碓氷さん。 例の‘結局、深意が探れなかった夜’が土曜日だった為、彼の顔を見るのは二日振り。 「お早うございますっ。すごーい!良く解りますねっ!前髪ちょっと切っただけなのに」 作り笑いと言う皿の上に、驚きと言う料理を乗せる。 それに…苦手な碓氷さんに対する皮肉のスパイス。 「そりゃ可愛い子の変化には敏感よ?うん。前のも可愛いかったけど、今のも最高っ!」 絶妙なハーモニーを爽やかな笑顔で即座に消され、後味の悪さだけが残る。
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