透明人間

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「あやチャン、今日はどの店に行く?最近行ってなかったんだけど、旨いうどん屋があってさぁ。店自体は小汚くて、奥さん早くに亡くしたおじいちゃん一人でやってるんだけど、味は確かなんだよ」 「はぁ…」 聞いてもないのに、店の内情まで教えてくれる。 それに対して曖昧にしか答えられない私には、碓氷さんが苦手という以外にも理由があった。 以前まで言葉を交わしても挨拶程度だった、『碓氷と松嶋が突然、近付いた』と言う事。 これはすぐに妙な噂が広がる社内には持ってこいのネタで、調度『課長ネタ』に飽きて来ていた最中、猛威を振って蔓延する。 『一緒にランチや会話は増えたけど、一緒に帰ったりしない分、付き合ってはないんじゃないか』 とか、 『碓氷さんはここのエースだから、恋愛にうつつをぬかす事を良く思ってない上司にバレるのが嫌でこっそり付き合ってる』 とか、中には 『三國さんと三角関係で泥沼だ』 とか、あまりに突拍子もなさ過ぎて笑うしかない噂話まで出る始末。 全く関係ない三國さんにまで火の粉が飛んでようと、全然気にする素振りなく近付いて来る碓氷さんに悪気はないんだろうけど…
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