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何かが違う。おかしい。
困惑気味に恐る恐る碓氷さんを見上げる。
目が合った瞬間に悪戯っぽくニヤリと妖しく笑う碓氷さんから、目が離せない。
「…逃げるぞ」
私だけに聞こえる様にそっと耳打ちし、私が手をひかれるがままに立ち上がると、碓氷さんは走り出した。
「…え?何?何なの…?」
「いいからっ!走って!」
私の手をしっかりと握り、碓氷さんは走り抜けていく。
背の高い碓氷さんの歩幅は大きくて、私はついて行くのがやっと。
それでも…
こんなに走ったのはいつぶりだろうか。
エレベーターホールに調度乗客を降ろし終えて閉まろうとする扉の間をギリギリで私達がすり抜けると同時に、パシンとドアが閉まった。
「「…はぁはぁ」」
自然に二人の手は離れ、互いに膝に手をつき、肩で呼吸する。
「…ははっ…今頃皆びっくりしてるだろうねっ…くくっ」
大騒ぎを起こした張本人はとても愉快そうに笑う。
「……………」
「…あやチャン?」
ひとしきり笑い倒した後、未だ一向に俯いた顔を上げようとしない私の肩に手を置き、覗き込もうする。
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