透明人間

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私の事を全て見透かしてそうなあの瞳にいつか吸い込まれるんじゃないか、碓氷さんに見つめられる度、何処かにいつの間にか芽生えていた思いが形を帯びた気がした。 人の意見を聞くのも大切。 自分の中で上手く消化出来ない時は外へ出す事も必要なんだ。 お礼を言うと 「お礼言って貰う様な事してませんよ」 そう言って微笑んだ彼女が酷く綺麗に見えた。 給湯室で話し込んでいた私達が戻った時、課長に睨まれて彼女とペロッと舌を出す。 ―私、本当にこの時嬉しかったんだ。 まだ入社して間もない貴女と心が通じ合えた気がして。 この職場で唯一心を許せる場所だと、本当の自分をさらけ出せるんじゃないかとさえ思った。 年下だけど、そんなの関係なくて。 あの時素直な気持ちを私からいとも簡単に引き出した貴女に。 私が単純過ぎるんだと言われたらそれまでだけど、私は貴女を信じてた。 明日が休みだと言うのに用事がない私は、仕事が終わった後、少し寄り道して帰る事にした。 お酒があんまり得意じゃないから、会社の近くで立ち寄ったコンビニではコーヒーの缶と生クリームののったプリンを買う。
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