透明人間

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突発過ぎる誘いに唖然とする暇もなく、急いで布団から抜け出すとクローゼットを豪快に開けて中の物をあるだけ取り出した。 そんな急に言われたって一人暮らしする時に服は半分ぐらい実家に置いて来たしっ! 焦る気持ちである中から服を選ぶと、シャワーを浴びて一旦気持ちを落ち着かせた。 ―一時間後。 「…よし。まぁいいか」 1DKの間取りに何とか置いたベット脇にある全身屈みの前で二、三回クルクルと回ってみる。 今の会社に入社するのと同時にここへ越して来て以来、こんなに身だしなみを気にしたのは初めてかもしれない。 思わず小さく苦笑いを浮かべる。 パンプスに足を通し、振り返るとそこには放り出した服達で無残にも散らかっていた。 「…実家だったら殺されるな」 再び苦笑いする私は表情とは裏腹に軽い足取りで家を後にした。 「行って来ます」 ―8時50分。駅前。 休日なだけあって、この時間帯の駅はまだ人がまだらだった。 早く来過ぎたな。何か張り切り過ぎみたいで恥ずかしいかも… ほんのりと恥ずかしくなって来た私は俯く。
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