透明人間

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必死に追い掛けて来て、ねぇ、ねぇ、と後ろをウロウロする碓氷さんは何だか可愛くて。 思わず緩む頬を引き締めるのが大変だった。 「…ところで、何処に行くんですか?」 暫く歩いてからふと行き先を告げられてない事に気付き、立ち止まる。 「ん?特に決まってないけど、何処か希望ある?」 キョトンとする碓氷さんに私は目を見開く。 「えっ!?決まってないんですか!?」 「うっうん」 「じゃあ何であんな朝早くにっ…」 「いやぁ、昨日すぐ寝ちゃって朝早く目覚めたら天気いいからさぁ。どっか行きたいなって。そうしたらあやチャンが真っ先に浮かんだから、つい電話しちゃった♪…御免、そういえば非常識だったかな」 へへっと無邪気に笑って見せる口元から八重歯が少し見えて、初めて男の人を可愛いと思った。 午前中は通り掛かった広場で野球をしていた子供達のボールが私達の足元に転がって来たのがきっかけに、中学、高校と野球をしていたと言う碓氷さんの野球指導をベンチから見守っていた。
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