透明人間

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一回り年下の彼だとか、歳の事で駄目になったとか、細かい内容が正しいかどうかは別としても… ただの噂話が真実味を帯びるには十分過ぎる彼女の変化。 きっと誰もが同じ事を思っていると思う。 でもね、私本当は人の事なんてどうでもいいんだ。 他人の人生など興味ない。気にしたって、羨ましがったってその人にはなれないし。 気の毒に思う時は自分で良かったなんて馬鹿げてる。 私はどうやら感情の一部を母親の胎内に落としてきたらしい。 その癖、人が自分を見る目は気になる。 笑われたくない、不幸だと同情されたくない― 欠陥人間だと気付かれたくない。 だから今日も私は笑う。上松さんの噂にも興味津々を装う。 「俺、上松さんが若い男と居るの見たんだよねぇ!」 と明らかに話題の中心に入りたいが為に吐き出された嘘だと言う言葉にさえ、 「私も見てみたいっ」 なんて相手を持ち上げる。 笑顔という仮面の下にある無表情な自分を隠す為に。 結構大きな会社で、労働者は噂好き。そんな会社に入社して二度目の冬が訪れた。
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