透明人間

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太陽が何かに追われるかの様に早々と姿を消すこの季節。 外を行き交う人の息は白く、ただでさえ早く家に帰って温かい布団で眠りたいというのにその日は残業で夜中まで1人残っていた。 出来上がったばかりの書類をトントンと綺麗にまとめ、左右に倒して首を鳴らす。 「やっと終わった…つーか何で私1人でこんなにやんなきゃいけないのよ」 閑散としたフロアで本性を現す。 上から出された仕事に、皆が我先にと休日前である今日の予定を口にする中、笑顔で請け負ったのは誰でもない自分なのに。 思わず支離滅裂な自分に苦い笑いを溢し、立ち上がる。 ガチャ… 物音一つない静かだった部屋に突然響いた音が肩をびくっと揺する。 「…あ…あれ?あやチャンまだ居たんだ?」 驚いた顔を直ぐに柔らかな微笑みに変え、碓氷龍人(うすいりゅうと)はツカツカと自分のデスクに近付く。 二つ年上の彼は誰にでも優しく、お洒落で爽やかな微笑みをいつも讃えていて、仕事が出来る我が企画課きってのエースだ。 スラッとスタイルが良く、企画だけで留まらない人気は秘書課までもだと言う。 ―でも私は苦手なんだよね。
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