透明人間

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当たり障りない態度の裏には、何だか自分と同じ無表情が隠されてる気がして。 「碓氷さんこそ…帰ったんじゃなかったんですか?」 すっかり板についた作り笑いを浮かべ、コートに伸ばした腕を戻す。 「あぁ、俺はねぇ…これ。忘れたんだよね」 碓氷さんはそう言って顔の横で携帯をヒラヒラと振った。 「あ…」 真っ黒の携帯にぶら下がった彼に不似合いなストラップを見て、私が口を開いたのは必然で。 「?」 彼と私と向かい合い、間に置いてるデスク越しに不思議そうに首を少し傾げる彼。 その人に自分の鞄から携帯を出して見せる。 『蒸し豚クン…』 重なったあまりセンスが良いとは言えないキャラクター名にふっと微笑み合う。 「あやチャン好きなの?」 「碓氷さんこそ」 共通の物を見付けると苦手なハズの碓氷さんとの会話も、苦痛に感じる事はなかった。 酸っぱい表情の豚が真っ赤な顔でマリリンモンローポーズをとってる『蒸し豚クン』キャラはマニアから絶大な人気がある。 もう隠せないから言っちゃうけど、私もそのマニアの1人だったりして家には人形やクッションなどグッズが揃ってる。
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