‘彼’と‘アイツ’と‘彼女’

2/37
1014人が本棚に入れています
本棚に追加
/493ページ
ある日。 一本の電話を受けた私は、疲れ果てた身体に鞭を打ち、電車で三駅程先にあるクラブへと走っていた。 受話口で確認した‘クラブK’の名前を店先にネオンで煌めく看板を見て乱れた息を整えながら何度も確かめる。 「…ここだ」 クラブなんて今まで数えるぐらいの付き合いで入ったきりだけど、私は何となく苦手だった。 狭い部屋に人間が密集している事も原因の一つだが、あの独特の空気、雰囲気に飲み込まれそうな嫌悪感が堪らなく嫌なんだ。 そんな私が何故こんな所で看板と睨めっこしているかと言うと… 時は30分程遡る。 私の携帯を鳴らした相手は美園チャンだった。 会社で毎日一緒に行動してるせいか、電話やメールのやり取りは殆どないけど、そんなに違和感を感じる事なくとった。 「…もしもし?」 「あやさん…御免なさい…」 「え?どうしたの、急に」 「………………」 御免なさい、と言ったきり黙り込んだ美園チャンが気になり、もしもし?と何度も問い返したものの、一向に返事は返って来ない。 カラオケにでもいるのか周りの耳障りな喧騒だけが耳に響く。
/493ページ

最初のコメントを投稿しよう!