Welcker tells nothing

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「不採用の告知だって?……ああ、ふふん、成る程な」  そして男は、何か理解したようなそぶりをみせ、唐突に笑いだした。 「はっはっはっ!そういう意味の『世話になった』か。始めから食い違ってたようだ。ちゃんと伝えとくべきだったな。いや、悪い悪い。しかし、ふふふッ……いやすまない」  男の言葉を聞いて俺もやっと言葉の食い違いの意味を出来た。確かに、どちらの場合でも俺は『世話になった』と言うのが定石だ。つまり彼は、俺がこの『学校』を“卒業”すると知っているという前提で話を進めていたが、とうの本人は、“退学”だと思い込んでいた、というわけか。  一通り理解できたが、しかし何故この時期にたいした成果も無い粗製の俺を採用するのかが解らない。俺の他にも、一通りの習練課程を熟した、所謂『卒業生』は数人いる。何れも俺を超える成績の持ち主達だ。俺はそれを聞いてみた。 「うむ、確かに君の成績は低い。しかしそれはAMS適性の評価であって、実際の実力とはあまり関係ない。私が君を選んだのは、君が『レイヴン』だったからだ。他のメンバーは、AMS適性こそ高いが実戦経験の殆ど無い、いわば戦いの素人だ。これから実戦形式を取り入れた演習を繰り返さなければ使い物にならないだろう。だが、その点君は現役のレイヴンだ。今まで生き残れた経験は素晴らしいものだ。経験だけは何物にも変えられないからね。我々にとって、経験とは言わば財産のようなものだ。君も、自分の経験を大事にしなさい」
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