Welcker tells nothing

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 成る程、俺が選ばれた理由は解った。しかし、何故この時期に補充する必要があったのか?知りたいのはこちらの理由だった。俺はその意思を伝えた。 「う、うむ……それはだな、つい先日、一人のカラードリンクスの死亡が確認されてな……だから早急に空きを埋める必要があったのだよ」  トクン、と俺の胸が騒いだ。何か一瞬、背中が寒くなるような感覚に襲われる。理由は解らなかった。俺は恐る恐る名前を聞いた。 「あの、それは……一体、誰が?」  男は静かに、そしてゆっくりとその名を告げた。 「……カラードランク4『レイヴン』だ」  その名を聞いた瞬間、俺の鼓動が一気に高鳴った。悪い予感が的中し、自ずと呼吸も速くなっていく。無性に息苦しかった。  何故だ?何故だ?俺は心の中で何度も叫んだ。何故彼が死ぬのだ?悲しみとも怒りともいえない、何だかよく解らない感情が下から込み上げてくる。確かに、リンクスはいつ命を落とすか解らない。しかし彼が……ヴェルカ隊長が負けるはずが無いのだ。  確かにヴェルカ隊長……つまりリンクス、レイヴンのランクは4だったが、それは事実の格付けでは無い。彼の実力は現在のランク1をも遥かに凌駕していた。それは誰もが認めている。暗黙のうちに。しかし、上位三名は何れも各グループの代表なのだ。つまり独立傭兵である彼がいくら頑張ろうとも、企業という名の壁に阻まれてしまうのだ。所詮、リンクスにランクを与えている管理機構カラードも、それの上位組織、企業統治連合(企業連)も、各企業の言いなりに過ぎないのだから。
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