Welcker tells nothing

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 身を挺して、か……実に彼らしい最後じゃないか……俺は真実を知り、逆にホッとしていた。彼は完璧だった。そう、最後まで。 「そうですか。全く、あの人らしい……最後でしたね」  俺は少し微笑みながら言った。大勢の命を護った偉大な男の代わりに、俺がリンクスになる。何と言うか……それがとても誇らしかった。 「ああ……全くだな。全く彼らしい」  男も微笑していた。 「あの、一つ聞いても良いですか」 「何だね?」 「ヴェルカ隊長との付き合いは長いんですか?あ、いや……何だか隊長を知っているようだったので」 「ああ……そうか、かれこれ十数年も前になるのか」男はしんみりと話した。「彼は私が最初に受け持った生徒の一人なんだ……懐かしいな」 「さぞ優等生だったんでしょうね……俺、いや……私なんかと違って」 「優等生?はっはっはっ!とんでもない!彼の成績は常に最底辺だったよ。最終成績はなんと『D+』、君よりうんと低かったんだ」  男は笑いながら話してくれた。ヴェルカ隊長の事を。男は何でも知っていた。隊長のレイヴン時代の事、そしてレイヴンになる前の事も。しかし、一番驚いたのはやはり隊長が劣等生だったという事だった。 「出来の悪い生徒程愛着が湧くものだ」と男が言った。「そしていつの間にか、彼はリンクスとして、かつての私と同じ順位にまで到達していた。嬉しかったよ……まるで息子の活躍を見ているようだった」  この男もまた、誰かと悲しみを分かち合いたかったのだろう。ヴェルカ隊長は、俺にとっては偉大な父親で、そしてこの男にとっては自慢の息子だったのだ。
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