Bark Fenrir

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 整備士達は口々に整備のアドバイスをくれた。彼等にとってそれは日常的な事だったが、俺にとってそれはは未知の領域で、まるで理解できなかった。だがそれは、彼等なりの俺に対する手向けでもあった。  いつしか時間は過ぎ、漸く俺が発注したネクストのパーツが届いた。そして、彼等の仕事が始まった。組立を始める直前に彼等は俺にこう言った。 「お前が、いつか一流のリンクスになった時は……その時は俺達を雇ってくれよな?腕は保証するぜ」  その時は、必ず。そう言って俺は、彼等の最後の仕事を見届けた。その仕事ぶりは見事としか言いようが無かった。彼等の作業には無駄が無く、それ故に美しくもあった。既に芸術の領域といっても過言では無い。あっという間にフレームが組み上がり、既に稼動出来る状態になっている。そこには中量の二脚型ネクストがあった。  俺がその作業に見取れていると、整備士の一人がこちらに駆け寄って来た。どうやら最終調整の為、機体に搭乗して作動確認をして欲しいらしい。  俺は、解ったと言ってネクストが組み上げられているハンガーの横にある、搭乗用リフトに乗り込んだ。数秒でコックピットの位置まで上昇し、その中に潜り込む。  本来なら急激な機動から血流を保護する耐Gスーツを着用し、さらに『Gジェル』という粘度の高い液体でコックピット内を満たし、コックピット全体で衝撃を緩和する耐G機構を構成しなければならない。それは、コンマ数秒で音速を突破するネクストの出鱈目な機動力に、搭乗者であるリンクスが耐える為の保護機構であった。リンクスといえど身体は普通の人間と大差はない。つまり、この耐G機構無しで出撃するという事は、自殺行為に等しかった。
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