Bark Fenrir

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 能力の高いリンクスや高価で性能の高いネクストだけで勝敗は決まらない。こういった的確で完璧に近い整備こそが、勝敗において最も重要な事柄なのであろう。コンマ数ミリの歪みが、ほんの少しのボルトの緩みが勝利を遠ざける。  ネクストとはかつてのF1(フォーミュラ1)を彷彿させるな、と俺は思った。  F1は、かつてACが生まれる以前行われていた、構造・重量・車輪・安定性などの細目を規定された競走用自動車の最上位級で、マシン性能やパイロットの腕も然る事ながら、最も重要なのは整備士達の腕とチームワークだったという。実際レースを見た事は無いが、以前何かの資料で読んだ記憶があった。個人での運用が厳しく、企業が管轄していたのもどこと無くネクストと似ていた。  六回目の調整が終わった頃には、機体を全く違和感無く動かす事が出来るようになっていた。まさに完璧と言える程俺の為に調整されたこのネクストは、まるで自分の身体の一部のように動かす事が出来た。俺の思考通りの動きを機体が完全にトレースするのだ。それはまさに感動的な程に。養成施設で搭乗したネクストとはまるで違う。今回の……この機体ならもっと良い成績が残せただろうな、と俺は思った。  感激に浸っていると、整備士が俺に下に下りてくるように指示した。俺は指示に従う。 「完璧ですよ!ホント感激モノの出来栄えです!ありがとう」  俺は整備士達に心から礼を言った。それはまさに本心であった。
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