Bark Fenrir

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「ああ、待っているぞ」  そう言って一郎はやっと俺を離した。  彼の身体には鉄と油の臭いが染み付いていた。 「ところでサシャよ。コイツの名前、もう決めてるのか?」  と一郎は、俺のネクストを指差しながら言った。 「ああ、『フェンリル』って名前にしようと思ってるんだ。伝説の狼」  フェンリル……それは、狼の姿をした巨大な怪物で、悪戯好きの神ロキが女巨人アングルボザの心臓を食べて産んだ3匹の魔物(フェンリル・ヨルムンガンド・ヘル)のうちの1匹だ。 「フェンリル?伝説の狼か……うむ良い名前だ。綴りは?」 「F、E、N、R、I、R」 「狼ならエンブレムは今のままでいいな?」  その問いに俺は頷く。狼を模試たそれは、レイヴンだった頃からずっと変わらないし、これからも変えるつもりは無い。昔から俺は、何故だか狼が好きだった。 「よし、なら最後の仕上といくか。いくぞ野郎どもッ!」  そう言って一郎は、他の整備士達を集め、何かの作業に取り掛かろうとしていた。 「ほれ、お前も手伝うんだよ。自分の機体だろ」  ボサッと突っ立っていた俺に、一郎はあるものを手渡した。ペンキの入った缶と刷毛。つまり、最後の仕上とは機体のペイント作業の事だった。  普段ならそれは、コンピュータ制御された自動塗装機に任せる作業だ。だが一郎達は今日に限ってそれを使わなかった。
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