Welcker tells nothing

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 女性職員に導かれるがまま、俺は無言で進んだ。三ヶ月もこの施設で暮らしたというのに、俺は宿舎と訓練所、後は食堂の事程度の事しか知らない自分を少し恥じた。もう少し外に感心を持つべきだと反省する。 「サシャさん、ここが第三会議室です」  と案内してくれた女性職員が一室の前で立ち止まって言った。  簡素な作りの扉。どうやら此処が第三会議室のようだ。  俺が、わざわざ案内さて悪かった、ありがとうと言うと、その女性職員は笑顔で、仕事ですからと答え、そして一礼してその場を立ち去っていった。最後に、これから頑張ってくださいね、という言葉を付け足して。  これから……か。確かに頑張らねばならないのは事実だ。早ければ明日にでも再びレイヴンとして戦場に赴かねばならない。養成期間という、安全で快適な“休暇”はもう終わったのだ。 「失礼します」と言って、俺は目の前の扉を開いて部屋の中に入った。  そこは会議室と名を打っているものの、個人オフィス程度の大きさしか無い、こじんまりした部屋だった。扉の向かいの机にに初老を超えた辺りの男が一人、ずしりと鎮座しこちらを見ていた。GAのリンクスだった男。今は引退している。俺にって彼との対面は、三ヶ月前にこの養成施設を始めて訪れた時に会って以来、二度目だった。  その男がこの施設で一番のお偉いさん、といったところなのだが……聞いた話によると、彼は元カラードの一桁ランカーだったらしく、まさにそんな印章だった。
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