母親

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カランカラン…。 少し古めかしい鐘の音が静かな喫茶店に来客を告げる。 「いらっしゃい」 野太く、少々ぶっきらぼうな男の声が迎え入れた。 カタ…ン。 静かにドアを閉め、初夏の心地良い風の香りと共に入って来たのは女、30半ばといったところ。 「お一人なら好きな席へどうぞ」 グラスに水を注ぎながら促す。 女はニコリと笑顔を作って見せ、その言葉を受け流す。 キョロキョロと店内を見回し、視線を止める。 そのまま真っ直ぐ視線の先、通りに面したドーム状のガラス際の席へ向かう。 「あなたが真島さん?」 席に座りコーヒーを飲んでいる男に笑顔で尋ねた。 「そうだが何か?」 男はカップを置き、掛けていたサングラスを直しながら答えた。
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